Design Academia - 国公立デザイン系大学会議

本学が所在する尾道市は人口13万人ほどの比較的小規模な地方都市です。かつては北前船が寄港する文化・物資と人の交流の要として、近代以降は瀬戸内の海事を担う要衝の地として発展してきました。このような地方小都市における街並みを特徴付けるデザインとは何でしょう。大都市圏において地域イメージを形作る要素は、時代の変遷に即応するように目まぐるしく変化するものですが、地方都市のそれは比較的緩やかであり、時として時代から取り残されたようなレトロ感あふれる様相を見せることがあります。観光都市として日本遺産にも登録され、少しずつ流入人口も増え活気を取り戻しつつある尾道市も、造船業が華やかだった高度成長期以降の鉄鋼不況により人口流出と過疎化の問題を抱えていました。往時を偲ぶかのように歓楽街(新開地区)には今でも大小数多くの店が軒を並べ、市街地には東西を貫く全長1.2kmにも及ぶアーケード商店街が現存します。そこで、美術学科でイラストレーションを専門分野とする野崎眞澄教授の研究室では、2020年度の3年生へのイラストレーション課題として、そんな地元の商業地区を中心としたエリアに点在する、都市を特徴付けるデザインエレメントを抽出することを目的に、コロナ禍ならではの課題作りを行いました。

具体的には、イラストレーション研究室所属の学生に実際に現地をリサーチしてもらい、「尾道らしい」と思う店舗の看板を「描いてもらう」というものです。都市部のレトロ看板や昭和フォントを写真に収めた書籍などは最近書店でもよく見かけますが、この課題では写真をもとにイラストレーションとして再構成することで、街のイメージを形作るデザインエレメントを意識することに着目しました。さらにはコロナ禍での移動制限対策として、遠くに足を伸ばすことなく足元にあるデザインを再確認することを目標としています。昨年度から始めた課題でしたが、学生間の評判もよく、また質の高い作品が揃いました。今後はしばらく同じ課題を設定することで、尾道市の特徴的な景観の一部を構成するデザインの傾向と、その変遷を読み解くことのできるデータとして纏められたらと思っています。

2022.3.29