Design Academia - 国公立デザイン系大学会議

第1回国公立デザイン系大学会議レポート(後編)

第1回国公立デザイン系大学会議レポート(前編)記事はこちら

 2部(後半)ディスカッション
第2部事例紹介に続いて、大学のデザイン学を取り巻くいくつかの関心の高いトピックについて、意見が交わされました。各大学が抱える課題やうまくいっている事例、将来を見据えてあるべき姿などが議論され、今後会議が取り上げていくテーマの一端が示されました。ここでは話題の一部を取り上げます。

いま進められる、新しい組織づくり

公立はこだて未来大学:事例紹介を見て、どの大学の改組の方向性も似ている。海外に目を向けると、それぞれにもっと独自性があるように感じる。デザイン教育の手段だけでなく、目的がもっと議論されてもよいのでは。

岡山県立大学:現在、全体のトレンドに反して、学科を増やすという改組を予定している。これは、「ものづくり」の基礎がしっかり身についていなければ「ことづくり」には至れない学生も多いのでは、と危惧していることも大きな理由のひとつ。

 

大学入学までの教育過程における、美術の基礎教育の低下

筑波大学:脱ゆとり教育のタイミングで、中学高校の授業から美術の時間が減らされた一方、体育はダンスなどのサブジェクトも増えている。今後デザインのマインドは、美術だけに頼るのではなく教科教育の中で培っていく可能性があるのでは。例えば、数学でグラフの表現を学んだり、国語でユニバーサルデザインについて学んだり。問題は、日本では教科単位の指導によってきたため、総合的な教育をできる教員が育っていないこと。今後、教科教育にデザイン教育を組み込んでいくためには、まず教員養成課程の中に、デザイン教育が必要。

長岡造形大学:ものが作れないのは、学生が悪いのではなく、教育に理由がある。一方で今の学生ならではの特徴もあって、ゲームなどに親しんできて動体視力がよいという調査もある。これらの能力を教育に生かす方法が検討されてもよいのではないか。

 

デザイン学の評価の方法とは?

千葉大学:これまでのデザイン学における「知」は、自然科学などのほかの分野からの借りものでやってきたところがある。そろそろ、デザイン領域での独自の「知」の在りかたを積み上げる必要を感じる。

静岡文化芸術大学:学部教育では「手を動かすこと」、大学院教育では「手を動かすことを言語化すること」を重視した指導を行っている。

香川大学:工学部を再編して創造工学部となって2年目。エンジニアリング、プロダクトデザイン、メディアデザインの分野があり、卒業時の評価の方法を検討している。エンジニアリングであれば卒業論文が通常だが、卒業制作や作品論文が適当な場合もあるのでは? と考えている。

筑波大学:これまでの学科統合や低年次の共通教育の議論を聞いていて、新しいようで古く感じる。筑波大学では、美術史から建築までの幅広い学生を一括で募集し、1年生全員にすべての基礎教育を行うという方法を、45年前から行っている。もちろん評価する方も大変だが、卒業研究という言い方で、作品、作品に論文がつくもの、論文に作品がつくものの大きく3パターンで評価している。

 

デザイン教育は、地域とどう関わるか

秋田公立美術大学:都市部と異なり、秋田ではまだまだ「デザイン=ロゴマークやおみやげの制作」と考えられがち。もっと源流から携わるデザインのありかたを地域に伝える段階にある。

東京都立大学:東京都立といいつつ、実は多摩地区や渋谷区・江東区など、地域性に根ざした多様な案件に取り組むことが多い。学生には、地域のことに取り組みながらトップを目指す指導をしている。例えば、「アルス・エレクトロニカ」は世界最先端のメディアアートを扱っているが、そもそもの始まりは地元リンツ市の課題を解決するところに端を発している。地域の問題が、結果的に世界に結びつくためには、課題を発見する力を高める必要があるのではないかと考えている。 

富山大学:地域の中小企業からの相談を受けることが多いが、受ける際に重要なのが、ともに取り組む教員がグローバル志向(普遍化型)とローカル型(特殊化型)のどちらの志向を持っているかということ。そこを見極めて、地域とマッチングすることが重要。 

愛知県立芸術大学:学生の価値は「就職予備軍」という点ではなく、「無責任であれる」ことにある。学生のいわば無責任で自由な発想が、硬直化した中小企業のブレークスルーを促し、銀行からの融資につながった例もあった。とても面白い現象があって、デザインの学生はもちろん油絵や彫刻の学生もプロジェクトに参加するのだが、企業は、彼らファインアートの学生の型にはまらない思考に魅力を感じ、一緒にプロジェクトをやりたがる。実は土台に美術的な感性があることの価値は、もっと評価されても良いのではないかと考えている。

 

第1回国公立デザイン系大学会議
日時:2019105日[土]
会場:東京ミッドタウンデザインハブ内 インターナショナル・デザイン・リエゾンセンター

[会議次第]
1. 開会挨拶
谷 正和 氏(九州大学大学院芸術工学研究院長)

2.来賓挨拶
玉上 晃 氏(文部科学省 大臣官房 審議官)
菊地 拓哉 氏(経済産業省 商務・サービスグループ
クールジャパン政策課 課長補佐/デザイン政策室 室長補佐)

3. 議 事
第一部:会の運営について
第二部:デザイン教育について(事例紹介)

4.ディスカッション
議長:清須美 匡洋(九州大学未来デザイン学センター長)

[運営担当]
九州大学大学院芸術工学研究院
九州大学未来デザイン学センター

[協力]
公益財団法人日本デザイン振興会

2019.10.7