Design Academia - 国公立デザイン系大学会議

課題解決力と高い技術力を併せ持つ「匠」養成機関

2019年4月、静岡文化芸術大学デザイン学部では、日本の伝統的な建築・工芸について、歴史・文化、および現代社会とのかかわりなどの知識と受け継がれてきた基本技能を修得し、現代社会と呼応しうる新たなデザインを生み出すことのできる人材の養成を目的に、匠領域を設置しました。ここでの「匠」とは、日本の伝統建築・工芸に関する優れた技術を有する職人に加え、彼らによって継承されてきた伝統的な技術を意味します。

 

設置の背景

日本人の感性や美意識が息づいた伝統建築・工芸は、生活様式や市場の変化に加えて、後継者不足などの厳しい状況にあります。一方で近年、デザインとのマッチングにより現代の消費者のニーズに合わせた伝統工芸品が、国内のみならず海外市場においても高い評価を受けるなど、世界に発信できる新たな文化資源として期待されています。
これに対し、わが国のデザイン教育と工芸教育は、多くの場合、異なる学科やコースとして行われており、デザイン教育による課題解決力と工芸教育による高い技術力を併せ持つ専門家の養成が求められます。静岡文化芸術大学におけるデザイン教育は2000年の開学以来、プロダクト、メディア、および建築系からなる3学科体制を継続してきましたが、デザインの対象領域の広がりに対応して、2015年度より学部2年生の後期より希望する進路に合わせて5つの領域から専門を選択する領域制を採用しました。今回、匠領域を加え6領域としたことで、一層幅広いデザインニーズへの対応を可能としました。

静岡文化芸術大学におけるデザイン教育の変遷

匠領域の教育

匠領域は、伝統建築、木工芸、金属工芸、および染織の4専攻からなり、デザイン教育をベースに、素材と向き合い、自らの手を用いて加工する伝統的な造形スキルを学ぶことで、伝統建築・工芸に携わる専門家の組織的・計画的な養成を目的とします。

【伝統建築】

歴史、文化を背景に、優れた技術・意匠・美術・工芸等から成り立つ日本の伝統建築に触れ、木造建築の基本技能や意匠を理解することで、未来に誇れる建築デザインを提案できる人材を育成します。

 

【木工芸・漆芸】

木の家に住み、木を使用した道具や家具などに囲まれて生活することで受け継がれてきた日本の木工芸の技術を学び、木の持つ魅力を引き出すことで、新しい日本の木のデザインを提案できる人材を育成します。

 

【金属工芸】

古来より金属を扱うために工夫・研究されてきた多様な技術・技法を学び、その知識と経験をもとに新たな金属造形の方向性を提案できる人材を育成します。

 

【染織】

日本の伝統工芸でもある「染め」と「織り」の技術をその歴史や文化とともに学ぶことで、幅広いデザイン分野に通じるテキスタイルデザインを提案できる人材を育成します。

 

地域との連携

静岡県内には東海道の宿場として栄えた多くの伝統や文化が継承されており、地域との連携を匠領域の重要な柱と考えています。現在、地域の各伝統産業分野と連携したプロジェクトの準備と合わせ、関連した公開講座を開催するなど地域社会との交流の一層の強化に向けた活動にも取り組んでいます。

匠公開講座

宮大工による槍鉋(やりカンナ)デモ

14代続く宮大工を講師に招いた、「やりカンナ」や「ちょうな」など伝統的な大工道具を用いた木材加工体験

 

注染染め体験

綿織物の一大産地であるとともに、浴衣生地の染色において全国的に大きなシェアを持つ浜松の繊維産業と連携した注染染め体験

2019.9.26