Design Academia - 国公立デザイン系大学会議

「技術の人間化」が九州芸術工科大学の建学の理念として掲げられた背景には、高度経済成長に伴うさまざまな社会問題を解決するために、科学技術を人々の幸福の実現のために適切に利用することに対する切実な要求が存在します。それから50年を経た現在、われわれはパンデミックがもたらす深刻なさまざまな社会問題に直面し、科学技術を活用してこの難局を乗り越え人間的な生活を取り戻していくことが重要な課題となり、まさに「技術の人間化」が期待される状況となっています。

九大芸工はどう対応したか?

2020年初頭から感染が拡大したCOVID-19の影響で、九州大学では、2020年度の春学期の全授業を遠隔講義で実施することになりました。九大芸工では、遠隔環境においても、柔軟でより効果的な授業を行うために、部局の専任教員に対して、希望者全員に「Zoom(ビデオ会議システム)」の有償アカウントを提供。併せて、部局全体で500GBのクラウドストレージを購入し、講義動画を簡単に記録・閲覧可能な環境を提供しました。また、教員間で遠隔授業のノウハウを共有するために、「Slack(チャットツールの一種)」のチャンネルを開設して参加を呼びかけました。 Slackでは、遠隔授業の実施方法や、成功/失敗事例、効果的なツール・機材やその利用方法、Zoomの出席情報を自動抽出するプログラムなどの多くの有益なリソース共有が行われました。

学生にとっての遠隔授業
以下は、学生を対象として行われた遠隔授業に対するアンケートの回答の一部です。

  • 1回の講義で全てを理解できる人もいるが、私のようにそれが難しい人にとっては、動画講義というのはとてもありがたいものである。実際、対面授業でどうしても講師の方の話が頭に入ってこず、自分ってこんなんで大丈夫なのか、と考え込んでしまった時もあった。しかし、コロナウイルスによる遠隔授業によって、自分に適した学びのスタイルが対面授業とは別に存在するのだと知ることができた。
  • スケッチや造形の授業では、先生の手元が近くで見ることができるため、遠隔のほうが分かりやすいと思った。リアルタイム授業は先生とのコミュニケーションも簡単に取れるしグループワークも顔が見えてやりやすいと思う。

技術を用いたデザイン教育の人間化

学生からのアンケートから、講義動画のオンデマンド提供や、スケッチの手元をビデオで撮影するなどの簡単な工夫だけでも、学生の学習体験の質が向上できる可能性があることに気付かされます。デザインが対象とする領域が非常に広くなり、従来型の授業形式や統一的なカリキュラムでは対応できないことが認識されている中で、今回の遠隔授業に対する対応は、新しいデザイン教育を設計していくためにまたとないきっかけとなります。現在、九大芸工の教員は、さまざまな制約の中、最新の技術を駆使して授業を再構成し、デザイン教育をフィールドとした「技術の人間化」を行っています。

 

5/19に行ったオンライン授業(受講生200人弱)の講義動画のアクセス数の推移。オンライン授業終了直後に復習のためのアクセスが多くなり、レポート締め切り直前に再び増加するのが分かる

2021.7.2