Design Academia - 国公立デザイン系大学会議

SDGsデザインインターナショナルアワード2020

九州大学大学院芸術工学研究院SDGsデザインユニットは、国連が定めた持続可能な開発目標(SDGs)に対し、デザインの力によって人類の直面する課題に挑むために、2019年SDGsデザインインターナショナルアワードを設立しました。世界中の学生から、社会を変えるかもしれないデザインアイデアを募集し、その解決策を広くシェアし、持続可能な社会づくりに生かすことを目標としています。
2020年度は応募テーマを「パンデミックを乗り越え、進化するためのデザイン」としたところ、世界15ヵ国の高等学校、専門学校、大学から184件の応募がありました。未曾有の危機にあって、すぐに対応できるアイデアや、アフターコロナを見据えた生活様式、社会システムや国際連携など、広範囲にわたるアイデアが寄せられました。 2020年11月10日(火)には、ファイナリストによる最終プレゼンテーションおよび表彰式を開催。新時代のSDGsアワードにふさわしい、完全オンラインでの実施となりました。世界中1563の方がライブを視聴しました。受賞した作品はいずれも、危機をきっかけにより良い社会を目指すために、デザインに何ができるかを考えさせるものでした。

 

最優秀賞「死者を送る船」
Viany Sutisna, Bonaventura Kevin Satria, Faith Lim Rui En(シンガポール国立大学 デザイン環境学院)
インドネシアでは、COVID-19によって亡くなった人の遺体は、プラスチックで覆われ数メートルのセメントの下に埋葬されています。この作品は、「大切な人に最後の別れを告げられない」ことに着目し、遺族が葬儀の際に顔を見ながらお別れを言うことができる「船」をデザインしたものです。「船」は密閉型のポッドの形をしており、遺体を安全に包み込みつつ、ポッドの透明な窓からお別れを言うことができます。内側には吸収性のある層が重なることで体液などの漏れを防ぎ、感染のリスクなく葬儀を行うことができます。

[受賞者コメント]
COVID-19が発生してから最初の数ヵ月間、毎日が終わりの見えない旅のようで、私たちは厳しく残酷な状況を目の当たりにしてきました。そして、感染予防の緊急対応を急くあまり、感情的・環境的なニーズが無視されていることに問題を感じました。これは最終的な解決策ではありませんが、これをきっかけに本当に必要なものはないかという疑問を投げかけ、より良い未来が生まれることを願っています。

[審査員コメント]
人々が死とどのように向き合うかは、普遍的であるとともに、固有の文化的な問題でもあります。世界中が巻き込まれるパンデミックにあって、死は合理性や機能性だけではなく、文化に根差した人間性に対する深い配慮が求められる難しい問題です。このデザイン提案は、人間の尊厳に正面から向き合うと同時に感染のリスクを排除し、さらに環境にも配慮した素材や構造を詳細に検討し、プロダクトとしての機能性も追求しています。非常時において、後回しにされがちな心の問題に、プロダクトデザインからアプローチした優れた提案です。
(審査委員長:池田美奈子 九州大学大学院芸術工学研究院 准教授)

 

ほかのファイナリストたちの作品もまた、コロナ禍によって「野菜を購入しにくくなっている高齢者」「必要な物資が調達されない医療従事者」「感染症について理解できない子ども」「学習機会を奪われていると特別支援学級の子ども」など、困難な社会状況下でより難しさを抱える立場の人たちを対象としたデザインでした。社会の中のミスマッチを解消する包括的なアイデアと、それを実装する具体例に満ちた作品が多く見られました。

以下、優秀賞4作品です。

【Best Innovation賞】
アレーテ移動菜園 濰坊市第9地区の移動しながら野菜を売る地域活動車両
Huang Zhilin, Shen Sixian, Wang Qi(Donghua University)
本チームは、上海の文化とも言われる「小菜市場」において、今回のパンデミックにより入り口が封鎖されたことで、高齢者が野菜を購入しにくくなっている現状に着目した。リサーチの結果、そのコミュニティ内の相互協力や、対人コミュニケーション力が弱まっていることがわかった。そこで、彼らは「アレーテ移動菜園」という、野菜の販売、地域の清掃、そしてコミュニケーションを促すことを目的とした地域活動車両を考案した。

 

【Best Quality賞】
医療従事者保護のためのサービス設計
個人用防護服の基準および寄付機会のプラットフォーム
Fang Yuchan, Zheng Ce, Gu Tianrun, Shen Yiwen, Luo Song(TongJi University)
本作品は、中国のCOVID-19患者7万7262人のうち4.4%にあたる3387人(2020年2月24日時点)が、防護服の不足により医療施設で働く医療従事者などであったことを明らかにし、その一因が、民間の医療現場において防護服の調達プロセスが遅すぎたことであることに着目した。非営利団体が個人用防護服(PPT)をこれらの医療機関に寄贈しているが、臨床医学的な基準を満たしているものは非常に少ない。そこで彼らは、民間の寄付者と医療現場での需要と供給の釣り合いをとりつつ、未だかつて経験のないこの状況下、医療スタッフにタイムリーに必要なものを提供するための情報サービスを確立することを目指している。寄付者、サプライヤー、政府、物流会社、メディア、家族、病院、医療従事者など、様々なステークホルダーのサービス連携に連動したアプリを設計・開発を提案した。

 

【Best Feasibility賞】
ハーイ!ジェスチャー 小学生の子どもたちに合わせた感染予防教育のサービス設計
Choi Yonggen, Zhang Yimeng, Fan Wenyi, Chen Yinglu, Li Yu(TongJi University)
本作品は、小学生(主に1年生から3年生)の子どもたちが感染症を完全には理解しておらず、予防策の理解も難しいことに着目した。創造や遊びが好きで、身体の動きが多いという子どもたちの特徴を活かし、より参加型で楽しく感染予防教育ができるよう、小学校低学年の児童を対象とし、ジェスチャーを用いた学校での感染予防教育を行うサービスデザインを考案。本チームは、子どもたちをよく観察し、教師とも協力。WeChatアプリを通じてボランティアを募集し、児童が知識を共創することに関わる教育戦略や教材を設計、制作した。

 

【Best Impact賞】
アナンディ学習空間
Shruti Umesh Chakke(National Institute of Design)
本作品は、コロナ禍にインドで特別支援の必要な生徒のわずか55%のみしか学校に通うことができていない問題に着目し、認知障害を抱える子どもたちが遠隔での学習体験を可能にし、同時に保護者にも家庭内においても彼らへの学習のサポートができるアプリを考案。本アプリは、両親とともに楽しく学ぶことができる「学習空間」を提供。パンデミックであっても子どもたちの精神の安定を保ち、保護者のストレスも軽減できる提案であった。

 

2020年度最終プレゼンテーション及び表彰式の様子はYoutubeからご覧いただけます。

2021.4.20