Design Academia - 国公立デザイン系大学会議

学部間連携教育とデザインの新しい枠組み

札幌市立大学は2006年開学の、日本の中では新しい大学です。デザイン学部と看護学部を併設し、学部を連携させた教育を行うという世界的にも珍しい取り組みを特徴としています。両学部の連携は、教育のみならず研究や大学運営にもおよんでおり、われわれはD×N(ディーバイエヌ)という呼び方で14年余の間、学際的な関係を醸成してきました。

「デザインと看護の学術的組み合わせにはどのような意味があるのか?」といった疑問は、多くの大学関係者から受ける質問のひとつです。ところが、実際に連携関係を密にして教育・研究に取り組んでみると、驚くほど意義を見出すことができます。看護学は人間を生命や健康の観点から追求する学問領域であり、人間観察を重視します。生活する人間といった観点から考えると、医学以上に人間の行いを基盤とした学問領域であると言えます。デザイン学についても、人間観察を元にさまざまな環境改善に努める学問領域であることは言うまでもありません。人間をよく観て、行いや環境、人工物を設計するといった点では、2つの領域は考えをともにしているということです。われわれの大学では、ここに連携の意義を見出しています。

看護学では、生死や健康といった人間の機能的な側面に重きを置きますが、これらを人間生活の中でかなえるためにはデザインの持つ情緒的な課題解決が必要です。デザイン学では、人間生活を豊にするためのさまざまな工夫を考案しますが、人間が健康に生きていることが保証されなければ役に立つ設計はできないでしょう。それぞれの専門を学ぶ若者は、必要な知識や技能を獲得するだけでなく、より広い視野で人間を観察する眼を養うことに意義があるのです。

札幌市立大学では4年間の大学教育の内、1~3年次の学生に対して学部を連携したプロジェクト学習を必須授業として課しています。おのおの先鋭化された専門を学びながら、1年に一度は必ず広い視野に気づかせるカリキュラムを用意して教育を実践しています。

▲札幌市立大学の学部間連携教育プログラム

札幌市立大学のデザイン

デザイン学部では開学から10年の間、デザインの成果物で専門を学ぶコース制を取ってきました。それらは、空間デザイン・製品デザイン・コンテンツデザイン・メディアデザインの4コースでしたが、10年を経た後、世の中のデザインの動向を見据えた上で新たに教育カリキュラムを設計・再構築しました。それが、人間空間デザインコース・人間情報デザインコースの2つです。これらは、空間や情報といった一般的なデザイン成果物で分けたものではなく、デザインの立脚点をどのように捉えるかといった観点で構築しています。

人間空間デザインでは、人間が社会を構成することで生まれるダイナミズムに重点を置いた社会科学的デザインメソッドから教育を行う一方、人間情報デザインコースでは、生物としての人間を認知科学や人間工学、感性工学などから捉えることで生み出される人間科学的デザインメソッドに重点を置いたデザイン教育を行っています。これらの教育カリキュラムの構成は、わが国の10年後のデザインを予見したものです。この10年の間にも多くのデザイン分野が融合・進化を遂げ、現在のデザイン界を導いています。「何を礎にデザインを考え始めるのか?」といった札幌市立大学ならではの体系的デザイン教育が、将来のデザイン界を牽引することになると確信しています。

▲札幌市立大学デザイン学部で扱うデザイン関連領域

 

(札幌市立大学 デザイン学部デザイン学科)

2020.3.20