Design Academia - 国公立デザイン系大学会議

コロナ禍:京都芸大(デザイン科プロダクトデザイン専攻)の対応から

COVID-19の影響により京都市立芸術大学でも2020年度前期授業を遠隔で実施することになりました。その状況下でのプロダクトデザイン専攻での実技授業での対応について紹介いたします。

プロダクトデザイン専攻では、一昨年より、学生が自ら目標を立て、主体的にカリキュラムコントロールができるように、実技授業のカリキュラムを変更しました。具体的には、基礎から専門へ積み上げる従来型から、学生が半期ごとの課題を自由選択する「選択課題」に転換しました。この「選択課題」には2-4回生が参加しますが、学年によってクラスを分けず、単にそれぞれの課題によって分けられ、異なる学年の学生たちが一緒に課題に取り組みます。それにより生み出されるのは、学年を超えて互いを意識し、高め合う関係や交流であり、経験値や知識の違いを補い合うような、縦横双方をまたぐような交流です。これは、学年によって分割された授業では得られないメリットです。加えて、同学年のクラスメイトは、並行して別課題に取り組んでおり、中間・最終合評の機会を通じて、違う課題であるがゆえに単純な競争関係ではないような仕方で互いを意識し、高め合うような関係性を築くこともできるでしょう。

コロナ禍での実技授業
京都市立芸術大学では登校禁止措置が取られたため、2020年5月12日から前期授業を遠隔で実施。Googleが提供する「Classroom」と「Meet」を用い、課題ごとに遠隔授業を始めました。授業開始前には、各選択課題を選択するための参考資料として、各講師による説明動画を作成・配信し、学生がそれらを選択していましたが、その後、緊急事態宣言で解除を受けたことで、6月後半からは十分な感染予防対策を条件に、対面授業が可能となりました。

本専攻は規模が大きくなかった上に、課題選択制にしたことで少人数化されたことが幸いし、課題によっては、十分対策を行った上で通常時に近い形での大学における対面授業を実施しました。ただし、遠隔での参加を希望する学生への個別対応や、遠隔で実行可能な課題における遠隔授業などは引き続き継続し、通常なら多数が集まってしまう合評についても、ICTツールを用いることで、一堂に会することのない方式を考える必要がありました。例えば、前期最終合評では4つの課題ごとに適切なサイズの教室を用意し、学生にはそこで作品を展示した上で待機してもらうという形式を選択。教員はタイムテーブルに従って各教室を周り、学生のプレゼンを聞いて講評し、その様子をライブ配信して学生たちが各教室で視聴できるようにしました。事前に一応のテストは行ったものの、多数アクセスや階移動などによるネットワークの不調、画質の問題、マスクによる声の聞き取りづらさなど、対面の合評なら生じない不備や限界が見える結果となりました。

 

教員アンケートから見えてきたメリット・デメリット
授業実施後に、選択授業の担当教員に振り返りアンケートを記入してもらいました。その中には

  • 学生の自宅での制作環境をしっかり把握した上で「作ろうとしているものを『どう』作るか」を注意深く指導した。
  • オンライン通話の特性上一対一(制作の進捗発表者と教員)の会話になりやすく、他の学生が置いてけぼりになるので、積極的に話を振ったりコメントをするように促し、参加度を高めるよう工夫した。

といった各人の工夫も多数見られた一方、実技授業の「物を扱う」という性質ゆえの限界も明確に見えてきました。

  • モデルなどのスケール感やディテールが全く伝わらなかった。
  • 遠隔では形のディテールや質感など伝わらない。
  • 対面授業と同等の質を確保するのは不可能。
  • 学生同士が空間を共有することができないので十分交流してもらえず交流による効果が生み出せない。

 

こうした限界を指摘する声は、本専攻は、身体性や共在に基づく教育や交流を重視してきたことを改めて意識させるものでもあります。ただ、遠隔授業には負の側面しかないわけではありません。各人が他者の視線を気にせずにリサーチや製作に取り組める、「制作初期のリサーチやアイディエーション」における情報のやり取りが容易であるというのは明確なメリットです。加えて、「フォーマット化された基礎課題」を用意し、それに取り組むことで効果的なスキルアップが狙えたり、特定の時間を拘束するスタイルでなくなった講義系科目などが増えた影響で可処分時間が増加したため、各人が製作時間をマネジメントする必要が生まれたりしたことは、結果としてデザイン教育の新しい可能性を開くものでもあったでしょう。

しかし、「遠隔向きである」「遠隔向きではない」といった課題の特性を判断し、調整する必要があることには注意せねばなりません。遠隔が主軸になれば、木工を要するなど、制作環境などの関係で遠隔では完結できない課題に取り組んでもらうことには困難が生じるということです。その点、今年度前期は、遠隔向きである・ないを見極めた上で、遠隔と対面を織り交ぜた授業形式を組み立てました。そのおかげもあってか、学生の学習満足度は概ね好評でした。

パンデミックは世界や社会のあり方を揺るがし、大学も学生もその影響を大きく受けています。けれども見失ってはいけないものもあります。実際、前期に授業を担当した教員は、大学という場でデザインを学ぶことの意義は、社会的・商業的な文脈を視界に入れながらもあえてそれらから距離を置き、デザインすることの可能性や楽しさを探求することや、そのために必要な経験と知識と関係性を身に付けられることにあるという、共通した思いを抱いていました。

社会も個人も根底から動揺させられる未曾有のときほど、自らもその内にある事態を引いてみる習慣、相対化する習慣が重要であり、デザイン的な思考が果たしうる役割があるはずです。教員としても激動だった前期を経て、目下のパンデミックだけでなく、今後どのような事態が起こっても、広い視野に立って優れたデザインを生み出せるような学生を育てていきたいとの思いを新たにしました。

 

図のキャプション:『選択課題を選択するための各講師による説明動画の配信』

2021.7.2