Design Academia - 国公立デザイン系大学会議

ニューノーマル時代のデザイン思考と国際プログラムの挑戦 —「Kyoto Design Thinking EXPO」での経験を糧に

京都工芸繊維大学 KYOTO Design Labでは「分野横断から生まれる創造性」をテーマに掲げ、グローバル企業から提供される様々な課題に対し、デザイン思考の手法を用いて海外の大学と協同で取り組む9ヵ月間のプログラム「ME310/SUGAR」を例年行っており、革新的なアイデアをかたちにしています。

「ME310/SUGAR」は、スタンフォード大学発のプログラム「ME310」が「SUGARネットワーク」となって世界各地の20を超える大学へと波及した教育ネットワークで、京都工芸繊維大学は日本で唯一このネットワークに参加する研究・教育機関となっています。

2021年7月9日にはその最終成果発表の機会として、「Kyoto Design Thinking EXPO 2021」を開催しました。昨年度は新型コロナ感染症の影響により開催できませんでしたが、今年はオンラインとリアルのハイブリッド開催という、新たな試みでの開催となりました。

今期はオーストラリアのスウィンバーン工科大学と提携し、中西金属工業株式会社/KAIMENの協力の下で開発された「-10℃の冷たい燻製を実現するアウトドア調理器具【Mogii】で新しいキャンプ体験を提供する」プロジェクトと、ドイツのハッソ・プラットナー・インスティテュートと提携し、武田薬品工業の協力を得た「精神障害に対する人々のレジリエンスを高めるためのアプリソリューション【Sela】」という2つのプロジェクトが成果を得ています。

本来であれば提携大学との交流も重視し、双方の大学を行き来しながら広範囲な調査に基づいたコンセプトメイキングやプロトタイピングを繰り返していくのですが、コロナ禍によりすべてのプロセスはオンラインで完結することとなりました。海外の学生たちとのオンラインに限定されたコミュニケーションを軸にしたものづくりはストレスも多かったようで、密度の高いディスカッションを行うことの難しさに直面していました。しかし徐々にその体制にも順応し、経験値が積み重なるに従ってクリエイティブ・マインドセットの高まりが感じられ、制作に集中していきました。

とはいえ、EXPOでのプレゼン後に話を聞いたある学生は、「やっぱりリアルな形で発表できると、あぁ、本当に生きてるなって実感できますね」と、コロナ禍での活動に感じていたフラストレーションが解消されたようで、歓びに満ちた表情を見せてくれました。

私たちはこれまで、「コラボレーション・プラットフォーム」をコンセプトに掲げ、数多くの国際プログラムを遂行してきました。しかし現在、ことパンデミック下における国際協調・往来の難しさを如実に感じています。新規感染者数が減少していても、提携大学の先生方や学生たちを招聘するための入国のハードルは依然高く、オンラインで完結できるシステム構築は重要ですが、一方でそもそも何をもってしてニューノーマルとするのか?の模索は続いています。

ただ、徐々に希望が膨らんできているのも確かで、再びリアルな交流を伴うプロジェクトに帰結できるよう先を見据えつつ、目の前の課題と向き合っています。

 

キャンプの演出を施しながらプロダクトへの関心を高める

 

「Sela」の機能とインターフェースを紹介する学生。実際に手に取って体験することもできるようになっている

2022.3.29